17年ぶりに僕の2冊目の写真集を出しました。僕の専門はアニメーションの研究なので、鉃道の写真集とはまったくおこがましい所行といわざるを得ません。しかしこの撮影のきっかけもアニメーションから始まったのです。1998年に、制作したアニメーション短編「この星の上に」という作品が、ポルトガル北部のエスピーニョという街で開かれた「シナニマ」という映画祭に入選し、上映されることになり、勇んでリスボンへ乗り込みました。そこで予期せず、遭遇した路面電車(エレクトリコ)にたちまち夢中になったのです。七つの丘を登るこのチンチン電車は、「路面」では正しくなく、登山電車ならぬ「登丘電車」と呼ぶべきでしょう。裏町で驚くような急坂を一気に登ったり、これはないよねという狭い町並みを抜けて行ったり、遊園地のアトラクションとしか思えない運転を繰り広げて行きます。ギシギシと全体を左右に揺らしながら、リズムをとるように進んで行く姿は、初期のアメリカの漫画アニメーションとそっくりです。50年も見続けてアニメ馬鹿になっている僕の目には、なにかしらの生命が宿っているとしか思えませんでした。そして、電車を利用している人々の生き生きとした姿がありました。足腰に不安を抱える高齢の人が多いように感じられる街ですが、この電車の助けを借りて丘を上り下りし、元気に暮らしている様子です。不躾にカメラを向ける異邦人にも、暖かい笑顔で応えてくれるように思えました。
それから、アニメーション映画祭のついでに寄った街、ブダペストやポルト、プラハなどで撮影を続けてきました。傑作とは言えませんが、まあ、ましなものを集めたのがこの本です。刊行後、僕のイメージに合わない(どうやら褒め言葉のよう)という感想をもらって少し安心した次第です。
売れ行きはパッとしませんが、それでも先日、神保町書泉グランデの鉄道コーナーに置いてもらったところ7冊も売れたというので、舞い上がって喜んでいる現在です。